前に進むために

夫が亡くなって3週間が過ぎた。

 

整理整頓が苦手な夫が残していったものは、生前からクローゼットからあふれ出し不衛生極まりなかった。葬儀が終わった後、「これを片付けないといけないのか」と絶望して、義理の兄や両親に、とりあえず目に見えて溢れているものを処分して欲しい、と頼んだ。ほとんど自暴自棄になっていた。たまに「これ、捨てていいの?」と聞かれても、使っていた人はもう死んだんだから、普通に考えたらいらないに決まってるんだよ、と心の中で叫んだあと、「分からないからそのままで」と伝えた。

 

f:id:yumegiwa:20211113210234j:plain

 

まだ少しはみ出しているものの、クローゼットの一角が完全に空っぽになって、「この荷物も片付くんだな」と安心した。安心したら、罪悪感が生まれた。こんなに簡単に片付くなら、選んであげたらよかったと、初めて後悔した。クローゼットの半分はまだまだ夫のものが詰まっている。それらはちゃんと吟味して、クローゼットの1/4くらいは夫のスペースとして取っておくものをしまおうと決めたら、ほんの少し心が落ち着いた。

 

探偵ナイトスクープ」で『亡き母が作った5年前の角煮を食べたい』という回は有名で、私も傑作選を見て涙したのだけど、この気持ちが痛いほど分かる。食べることも捨てることもできない、と娘さんがおっしゃっていたあの回だ。

「行動した痕跡」が、一番尊くて、一番辛い。

下着や洋服をバンバン捨ててしまった後も、「残りはもう少し吟味して、ちゃんと残しておこう」と切り替えられた。でも、冷凍庫に残った『夫が冷凍したご飯』がどうしても無理なのだ。夫が冷凍した、夫用のバカみたいな大きさのご飯と、私用の小さなご飯。食べることも、捨てることもできず、見るたびに辛くなる。

 

f:id:yumegiwa:20211123222754j:plain

 

葬儀や手続きの忙しさは悲しみを紛らわせるためにある、みたいな言説があるけれど、真っ赤な嘘だった。葬儀や手続きは大変なだけで、それとは別に24時間悲しみは訪れる。

 

それでも生きていかないといけないので、今は私が暮らす環境を整えたい。私だけが暮らす、私のための環境を整えたい。

 

夫のお陰で出来るようになったことはたくさんある。感謝しながら、時に面倒くさがりながら、這ってでも前に進む。